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すべてがFになる THE PERFECT INSIDER 11話(終) + 総感

事件からしばらく経った。犀川や萌絵はそれぞれの日常を送っているものの、萌絵は叔父に「犀川は警察の監視下にあるのでしばらく近づかないように」と言われている…という建前で、真賀田四季犀川との関係に対して距離をとっている様子。一方では、犀川の元に指名手配中の真賀田四季博士が訪ねてきていた。

前回、ヴァーチャルシミュレーターでの四季と犀川・萌絵との対談で、「見えている景色」に共感を覚える四季と犀川に対して、ひとり距離を感じる萌絵という構図を描いたが、今回はそれを踏まえて四季と犀川とのやりとりで事件の結末を、萌絵と犀川でラブストーリーの締めくくりとする最終話らしいエピソード。四季と犀川、萌絵と犀川。別々のようでいて、萌絵と犀川の間を四季が繋ぎひとつの物語としてまとまる。その仕立て方が絶妙であった。

四季が犯人とわかってからも、彼女への研究者としての敬意を崩さない犀川の、倫理的な問題に対する問答や憤りなどを置いておく…というかはじめからそこは重要視していないとでもいうような接し方がクール。僕自身が見ている景色…萌絵が見ている景色…それらとは全く違う景色を見ている。人殺しはいけないんだ!という当たり前の問答をしないからこそ本作は面白い。学者対学者という設定が効いてるし、そしてなにより人の倫理的な過ちから社会の闇を…ということでも、難解かつ適切にヒントが散りばめられた秀逸なトリックを…ということでもなく、こういったものの見方、考え方があるんだよと、非凡な思考を見せることが本作の目的となっている。そしてそれは狙い通りとても興味を引くもので、面白い先生の授業を受けているような感覚がなんとも快感。犀川が萌絵に語った西之園教授…萌絵の父とのエピソードなどはそれを象徴するエピソードだった。

自分の意志で生まれてきたわけではない四季が、自由=死を得るために自殺を選択せず死刑という形での死を望むのは、「しがらみ」を欲したからではないだろうか。何不自由なく育ってきた四季だからこそ、自由を実感できなかったのかもしれないし、そもそも「何不自由なく」というのも抽象的で、四季にとっては必ずしもそうであったとは言い切れないのではないか。生きるとは異常で病的である、そうでなければならない、「何不自由ない」環境の中で、強い「しがらみ」=「新藤との恋」を得ることで生の実感を得て、その「しがらみ」=「殺人罪」による死刑によって殺される。それは何不自由なく育った四季の、両親に対する人生初にして最後のわがままだったのではないだろうか。そんな四季の思考を、理屈はわかります…と一旦口にしたものの、いや、わかりませんと訂正した犀川。これは四季に対する「ごめんなさい」であり、萌絵に対する好意の表明でもあったように見えた。自由は欲しいが死にたいわけでも殺されたくもないし、「しがらみ」は好まないけど萌絵と意味なしジョークで遊ぶのは楽しい、と。

萌絵と犀川との、意味なしジョークから始まる日常、そして価値観や認識の差から犀川の言葉に傷ついていく萌絵。犀川はつねに正論を述べている。それは無情にも思えるけど、正論を述べてるからといって他者に情が無いわけではないよ、事実に誠実でありたいだけなんだ、人が矛盾を抱えてることも承知してるし、なんなら愛を持って受け止めることも出来るよ…と、この件からは、正論を述べるがゆえに無情と思われがちな学者の、心の叫びが込められてるように思えた。そして衝突を経て、双方が他愛もない会話から好意を確認し合い、安心する。友達以上恋人未満の、かつ仲良し夫婦のようなやり取りがなんとも萌える。こんな関係がいつまでも続くのなら、恋人だの結婚だの形にこだわる必要もないだろうと、ここでも恋愛観を試されてるように思えた。面白い授業だ。

終盤の四季とミチルのシーン。15年間の引きこもり生活の紹介のようであり、彼岸の出来事のようにも思えて、「自由」になった四季が家族とそこで再会を果たしたんだ…と思わせるところがポイント。しかし時間と場所を指定していない…!!ということで、自首したはずの四季が、後日東京で端末にアクセスしたとわかり、そのことを知った犀川が笑う。死にたいのに自殺でなく他者に殺されたいと言ったり、煙草に興味を示してはすぐにもみ消したり、自首したのに逃げた様子なものだから、そりゃ可笑しくもなるだろう。死を延期したくなるような、新たな興味が四季に芽生えたのかもしれない。ヴァーチャルシミュレーターでの犀川の珍回答に興味を示して、危険を犯してわざわざ犀川に会いに行ったように。そしてそれを観てる僕もまた、四季の自首でここで終わるのかな…という寂しさが吹き飛ばされてプッと吹き出してしまった。シリーズ化も期待できそうな幕引きが嬉しい。

 

総感

都市的にシックでカジュアルなデザインで統一された映像・音楽に、リアリスティックでも色気なり可愛らしさなり無骨さ野暮ったさなりの魅力あるキャラデザだけでも大好物なのだけど、ストーリーが僕のツボにビシィッとはまって大いに楽しめた。犀川・萌絵・四季のアップでバンバンバンと始まり、ロトスコープ犀川と萌絵と四季の関係性を表現するOP映像と曲も最高。曲に合わせてダンサーがそれぞれのキャラを振りつけたのだろうけど、それもまた素晴らしい表現力。

森博嗣さんの小説はいくつか読んでるのだけど、森博嗣さん自身に興味が湧いて小説より氏のエッセイのほうが多く読んでるかも知れない。本作「すべてがFになる」も未読で、だからこそ新鮮な気持ちで見られるかも、と期待してたのだけど、森博嗣さん自身が作品に溶け込んだかのような個性あふれる視点・思考がたまらなく楽しく、学生の頃面白い教授と他愛もない話でありながら発見の多い刺激的なひとときを過ごしたような、そんな感覚が蘇ってくる魅力ある作品に仕上がっていた。真賀田研究所で起きた事件・そのトリックに、真賀田四季という人物と、彼女や犀川の「見ている景色」に迫る、そして萌絵の犀川への思い…ひとつのストーリーに重層的にお楽しみが盛り込まれてて、かつそれぞれが上手く絡まり、盛り上がりを維持したまま最後まで駆け抜けていってくれた。最高に楽しかった!是非!シリーズ化を!