アニメられる日々

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落第騎士の英雄譚 総感

今期放送の「学戦都市アスタリスク」と設定や展開が似ている、と放送開始時から話題となった本作。主人公がヒロインの着替えを覗いてしまうという件が好きでないので、双方とも第一印象は決して良くなかった。しかしながら、「主人公は剣士」「ヒロインがツンデレで炎属性の剣士」「主人公がヒロインと戦う」「学校対抗バトルトーナメントに選抜されることが目標」など共通点が多く、またストーリーの展開も記憶の混濁が生じるほど似通っており、そんな両作品がストーリーが進むに連れてどう個性を出してくるかという興味がいちアニメファンとして湧いた。

視聴姿勢が前のめりになったのは有栖院が登場してから。オネエなキャラが効いてて、男性キャラには困難な女性への踏み込みが可能な彼が、兄の一輝とステラとの恋路に暴走気味に割り込む珠雫をコントロールする役割と、一輝とステラの恋路を応援する役割も担っていて、妹でありながら兄に過剰に執着し、また家庭の事情から陰りのある珠雫を個人として成長させる役割も担っている。結果的に、ハーレムモノの文脈から脱皮し、ひとつのラブストーリーと各々の成長物語へと昇華し、厚みのあるストーリーとなった。

小事件を織り交ぜながら、しばらく一輝とステラのラブストーリーが続く。質感あるサービスシーンからは作り手のこみ上げる情念を感じたがそれは置いといて、数多の候補の中で態度を決めない主人公、という作品が多々ある中で、早い段階から相思相愛の恋物語へと発展するのは新鮮であった。しかしながら、バトル方面でもうひとつ盛り上がりが欲しいと感じたのも事実。そんなタイミングで、絢瀬が登場しての一連の騒動があり、こちらはなかなかに見応えのあるものだった。同じ剣術使いとあって、一輝の剣にまつわる背景の掘り下げとなり、これが10話からの猛烈な盛り上がりの足がかりとなる。

今期アニメ群のなかでは比較的オーソドックスに思えた本作が、強烈な個性を見せたのが10話での珠雫VS東堂刀華。このバトルで素晴らしいのは刀華の「凄み」の演出。会場の実況に、一輝たちの実況がその凄みを説明し、珠雫はバトルの最中の瞬間瞬間にあの手この手で相手を読み行動する。そして何より、刀華本人が何を考えているのか一切描写しないところ、ここが素晴らしい。珠雫の手がことごとく決定打を欠いていると、一瞬の隙を突いて刀華がドン!と間合いを詰める。観るものすら条件反射を起こさせるような意表をついた演出。刀華が何を考えているのか描写してないから、珠雫の瞳に映る刀華が「抜き足」で間合いを詰める、珠雫の戸惑い・動揺がこちらにも伝わってくるよう。居直った珠雫が、落ち着きから出た最後の策が、刀華の意表を突くことが出来、トドメを刺せるか!というタイミングに合わせて盛り上がりを見せた劇伴が止む。「雷切ー」その一言で勝敗が決する。「伝家の宝刀・雷切」の、「伝家の宝刀」たる所以を見せつける、鮮烈な締めくくりであった。

11話は一輝とステラの恋物語に復帰…と見せかけて、皇女との恋がスキャンダルに発展し、黒鉄家に一輝が拘束されることで、前回見せたテンションにぐっと復帰する、一輝の心象からくる風景や光景の演出が独特な回。お家の嫌がらせで体力を消耗させられる一輝が、諦めないと踏ん張りを見せ、そして絶望の淵に立ち心身ともにボロボロになったタイミングで、東堂刀華との決勝を迎える。

お家の妨害にあっても会場になんとかたどり着いた一輝を迎える仲間や友人たち…物語の終わりらしいお膳立てを経て、刀華との対決に挑む。ここからまた爆発的にヒートアップする。心身ともにボロボロな一輝の策は、一刀で勝負を決すること。この乾坤一擲の策が、抜かれたら最後、回避不可な伝家の宝刀・雷切で臨む刀華と実に相性が良く、開始と同時に「一刀修羅」を発動した一輝にすべてを察した刀華がこちらも瞬間的に全力を出す。雫のあらゆる策を退けて格の違いを見せつけた刀華との一戦とは対象的な、一撃で決まる乾坤一擲の大勝負、その爆発的に高まる緊張感、燃え上がるような演出が、短時間のバトルを鮮烈に印象づけた。OP映像をなぞらえるような、OP映像がそういうことか!と理解できるような試合運びも見事。

公然と交際をアピールし、ステラ父の働きかけもあって、スキャンダルも収束しめでたしめでたし、とストンときれいに終わったけども、しかしながら振り返ってみると、決して良くはない印象で始まり、これは合わないかな…とすら思った作品が、残り3話でこれほど燃え上がる展開を見せるとは想像だにしなかった。アニメは「3話までは見ろ」とはよく言うけども、わからないものだ。ともかく観続けてよかった。「学戦都市アスタリスク」との奇妙な符号といい、アニメ人生において貴重な視聴体験となった。次期も是非観てみたい。