アニメられる日々

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紅殻のパンドラ 総感 「未来は明るいほうがいい」

全身義体の少女・七転福音が、叔母の崑崙八仙拓美の住むセナンクル島へ向かう客船で、実業家のウザル・デリラとその愛玩用ペットを自称するアンドロイド・クラリオンと出会ったことがきっかけで、セナンクル島に隠された秘密と陰謀に巻き込まれていく…が、そんなことはつゆ知らずな福音は、拓美宅を拠点にクラリオンことクラりんと共に楽しい日々を過ごしていく。

 

士郎正宗原案・六道神士作画の原作コミックのアニメ化作品。当初は「攻殻機動隊ARISE」の後日談となる予定が、諸般の事情で白紙となったために攻殻世界より前の時代として再構成されたとのこと。「紅殻」と読みは同じでも文字として違うように、攻殻世界とは雰囲気がまるで違う、可愛らしい女の子キャラたちがドタバタとコミカルにストーリーを紡いでいく陽気な作品となっている。そして、本作の魅力は、攻殻世界とはまるで違う雰囲気であるにもかかわらず、攻殻のどのアニメシリーズよりも士郎正宗テイストが濃厚で、士郎正宗作品に感じた魅力が本作にはぎっしり詰まっている。僕が観たかった攻殻アニメを、士郎正宗原案という形でも見ることが出来たのがたまらなく嬉しい。

さて、本作は、実業家ウザル・デリラこと国際指名手配犯サハル・セヘラが巨大兵器ブエルを作ったことで、セナンクル島が迷惑を被るのだけど、そのブエルを狙う組織の暗躍も含めて描きつつ、平行して福音とクラりんの楽しい日々を中心に描いていく。

そのなかで、高度に発達した近未来社会を生きる人々の「日常」を、我々の立ち位置でなく、しっかりそこに生きる人達の立ち位置から描いているから、長々と説明しなくても、福音から、クラりんから、拓美から、ウザルから…それぞれが発する他愛もない会話のひとつひとつから、我々とは違う感覚・認識を発見できる。全身義体は望んでするものでなく、事故や病気などで仕方なく行われる措置である、その悲しい現実、我々からすれば悲惨な現実を、世界でただ一人だけの悲劇としてでなく、誰でも起こりえる不幸とその克服の一ケースでしかないという当たり前感、日常感こそが、近くて遠い近未来に在り物のような質感をもたらしてくれる。舞台装置をこれでもかと練り上げて作っておいて、でも説明はさり気なく。特別なものとして描かない、そこに生きる人々の日常として描くこと、これは士郎正宗作品すべてに通底するもので、氏がいかに近未来に憧れているかが伺える。そこに生きる人に自分もなりたいのだ、とでも言いたげな。

大筋では、ブエルを手にしようとする米帝のクルツや拓美を出しぬいてウザルに一杯食わされた、というオチになったけども、結局ウザルは何がしたかったのかというと、人類を試したんじゃないだろうか。ブエルに触れなければ人類は平和でいられる。しかしブエルに手を出したり、クラりんや福音の身が脅かされる事態になれば、ブエルが人類を葬るだろう…的な。ウザルが福音を鍵にしたタイミングは、1話でクラりんが福音を眠らせたときだろう。この気まぐれ感、茶目っ気がなんとも愉快。

コミック「攻殻機動隊」で士郎正宗氏は「未来は明るいほうがいい」と仰った。この言葉がものすごく好きで、それを体現してくれた本作は、いちファンにとって贈り物のように有り難い作品となりました。

作画の六道神士さんに言及できてないのがなんとも肩身が狭く…原作未読なので申し訳ない気持ち。原作も読みますので(小声